プロジェクトの目的
プロジェクト名
日本大学におけるアンチ・ドーピング教育研究拠点確立とポストオリンピックへの展開
プロジェクト期間
5年間(2017~2021年度)
プロジェクトの目的
本プロジェクトは,(1)アンチ・ドーピング教育研究拠点を形成し,科学的エビデンスに基づいた啓発教育などに資する教育プログラム・情報ツール及びドーピング検査技術を研究開発すること。そして(2)得られた成果物を用いて将来のトップアスリートから一般市民・子供までアンチ・ドーピングに関する啓発活動を進めるとともに,巧妙化するドーピングの解決に貢献することを目的としてます。
我が国では,2019年にラグビーW杯東京大会,そして2020年には東京オリンピック・パラリンピックを迎えます。スポーツが持つ強い共感力と社会を動かす起爆力は,これらのスポーツイベントを通じて国民のスポーツへの関心を飛躍的に増大させること,さらには,心身を健全な状態に保ち能動的に社会に参加する者の著しい増加が期待されます。
このような背景の下,来るべきビックイベントの開催に向けて2016年には水落文部科学副大臣の指導により「アンチ・ドーピング体制の構築・強化に向けたタスクフォースによる報告書」がまとめられ,その中でアンチ・ドーピングに対する教育活動及び研究活動の充実・強化への大学の学知の参加が求められました。日本人アスリートによるドーピングは,知識の欠如による「うっかりドーピング」がほとんどですが,海外では組織的なドーピング行為が多く報告されています。これは文化と倫理感の違いに依存しており,今後,世界的なドーピング行為の根絶のために我が国が持つアンチ・ドーピングに関する高い倫理観と文化を世界に広めていく意義は大きいです。またドーピング行為を規制する組織である世界ドーピング防止機構(WADA)において,アジアで唯一の常任理事国である日本は,アンチ・ドーピングに関する我が国の知識を積極的に国外に展開して行く使命があります。
ナショナルチームに属するトップアスリートは,ドーピング行為に関する情報を入手することができますが,一般アスリート及び市民レベルにおいては,その情報に触れる機会はほとんどありません。また最近のスポーツ活動を行っている子供は,幼いころからプロテインなどの「サプリメント」を摂取しており,その保護者や指導者も推奨する傾向にあります。これらの事実は,将来のアスリートにおけるドーピング行為につながる懸念を抱かせます。従ってトップレベルに至る以前,すなわち小中学生からの基本的な「アンチ・ドーピング教育」が必要です。またさらに年齢が低いほど保護者や指導者等,周囲の影響力が大きいことから,選手だけではなく,国民全体の「アンチ・ドーピング」への教育体制が必要です。検査技術に関して,日本人に多い「うっかり」を証明するための科学的手法は乏しく,状況証拠が中心です。従って「うっかりドーピング」を科学的に証明する技術の開発は,より公平な検査を行う上で導入すべき必要があります。さらに今後取り上げられる最優先の課題は,遺伝子ドーピングをはじめとする新たなドーピング手法への対応です。ドーピングの技術は日々進歩しており,その検出技術は未だ追いついているとは言えません。従って新たなドーピング手法に関する知識の集積は喫緊の課題です。
上記の背景から本プロジェクトでは,本大学が輩出したトップアスリートの意見を下地に,文・理・医系から成る横断的な研究力と幼稚園から大学院までを有する継続的な教育力を織込むことでアンチ・ドーピング教育研究拠点を確立します。そして本大学は得られた成果を来るべきスポーツイベントや地域・国際社会への展開を通じて発信していくことで,真のスポーツ振興の旗手として広く社会へ貢献していきます。
※記載内容は全て2017年度現在のものです。
期待される研究成果
1. 禁止薬物に加え,正しい医薬品の使い方,栄養摂取方法などの健全なアスリート生活に必要な包括的な知識に関する教育プログラム及びツールの研究開発
日本大学出身メダリストの意見をベースに表面的な「アンチ・ドーピング」に留まらない「心身ともに健康な人生を歩むための心の基盤づくり」を目指したアンチ・ドーピング教育プログラム及びツールの研究開発を行います。多学部・多研究所を有する研究機関としての強みを活かした学際的な研究力により,薬物に関してだけではなく,栄養摂取方法やサプリメント情報もこのプログラム及びツールに含まれます。得られる成果は,現役トップアスリートだけではなく,将来のトップアスリートを守るものともなり,我が国におけるスポーツ振興に大きな役割を果たします。
2. 開発した教育プログラム及びツールによる地域社会に対する啓発と国際展開
2019年ラグビーW杯東京大会と2020年東京オリンピック・パラリンピックを控え,一般市民においてもスポーツ熱は高まると予想されます。そこで薬の専門家である薬剤師,特にアンチ・ドーピングの知識を有する公認スポーツファーマシスト資格を有する学校薬剤師が,本プロジェクトで作製したアンチ・ドーピング教育プログラムの普及活動を行います。また児童生徒及び選手候補とその保護者・指導者(アントラージュ)及び地域に対して参加型の公開講座を行うことにより地域社会レベルでの啓発が期待されます。さらに薬剤師及び公認スポーツファーマシストに対するアンチ・ドーピングに関するスキルアップ講座を本学が提供し,指導者の輪を広げることで,アンチ・ドーピングに関する啓発を市民レベルに浸透していきます。 ドーピングが世界的に問題となる一つの理由として各国におけるドーピング行為に対する倫理観の違いが指摘されています。そこで本学に在籍するスポーツを目的に留学している外国人学生(留学生アスリート)を対象に,アンチ・ドーピングに関する知識,倫理感,文化等を調査し,その結果をもとに本プロジェクトで作製した教育プログラム・ツールの国際版を作製します。留学生アスリートとともに開発されたアンチ・ドーピングの教育プログラム・ツールの世界展開は,我が国が推進するスポーツを通じた国際貢献プロジェクトSPORT FOR TOMORROWの一助となることが期待できます。
3. アンチ・ドーピングに関する情報データベースの構築とアプリ化
運動能力の向上を目的としてサプリメント類が用いられるケースは非常に多いです。しかしながら特に生薬成分を含むサプリメントに関しては製造元による含有物の量的差異が大きいため,含有量を一律に明示することができず「うっかりドーピング」のリスクが大きいです。そこでアスリートの意見をもとに主たる製品について禁止化合物の含量を再評価します。得られた結果は,医薬品(一般用を含む)に関する情報とともにデータベース化します。これによりアスリート及びそのアントラージュ,そして医療機関においても服薬の適切性を速やかに判断することができます。開発したデータベースを,上記1のアンチ・ドーピング教育ツールの一部と融合し,スマートフォン対応のアプリ化をします。スマートフォン等の使用が日常化されている現代において,データをアプリ化することで利用者が情報に対してよりアクセスしやすくなり,知識の習得を促すことが期待できます。
4. 意図しないドーピング行為(うっかりドーピング)に関する検査技術の開発
日本人アスリートが犯すドーピング行為のほとんどが,意図しない「うっかりドーピング」です。また体質(エピジェネティックな変化)等により許可化合物が禁止化合物に代謝されてしまう可能性も指摘されています。そこでアスリートの過失による禁止薬物の摂取に関して科学的裏付けを迅速に提供する必要がります。本プロジェクトではこの課題に対して,単純に化合物の検出を行うだけではなく,薬物代謝を考慮した薬物速度論の観点から解析し,服薬時間を同定する新規検査技術を開発します。
5. 遺伝子ドーピング解析及びiPS細胞ドーピング解析に向けた分子基盤の提示
国際オリンピック委員会(IOC)はリオ・オリンピックで,遺伝子のドーピング検査も導入することを発表しました。遺伝子ドーピング技術は日々進歩しており,そのために解決しなければならない技術的問題が多いです。また新たなドーピング手法としてiPS細胞を用いた自己細胞の移植が予想されます。本研究では,これらの新規ドーピング方法の実用化の先駆け,検出技術開発の分子基盤を確立します。すなわち遺伝子ドーピング解析に関しては,その利用が強く予想されている筋肉増強に関わる因子IGF-1及びミオスタチンに焦点を当て,遺伝子ドーピングマウスを作製します。またiPS細胞ドーピングについては,赤血球前駆細胞の作製とその移植をターゲットとします。これらを用いて新たなドーピング解析に向けた分子基盤を提示します。
取組
学長のリーダーシップのもと本大学は「スポーツ日大」のブランドを構築してきました。事実,本大学は多くのオリンピックメダリストや優秀なアスリートを輩出してきており,例えば,輩出してきたオリンピック選手は,これまでに延べ450人を超え,メダル獲得数88個(金メダル21個を含む)及び入賞者94名を数えております。さらに,それらのアスリートを現役引退後に教職員として採用することで,各選手が持つ技術及びスポーツマンシップを教育の場に反映させてきました。また「大学ブランド・イメージ調査」(首都圏編)(日経BPコンサルティング)においても「スポーツ活動に熱心に取組む」大学として広く認知されています。
教育面に関して言えば,日本大学は幼稚園から大学院までを有しており,一貫した教育体制をとっております。例えばアスリート教育においても付属高校から継続的に選手育成をする高大一貫7年プロジェクトを遂行しており,これを拡大することにより本プロジェクトの対象年齢に合わせたアンチ・ドーピング教育の開発及び実行が可能であります。研究面に関しても16学部及び1短期大学部を有する総合大学であるとともに,32の研究所,約3,000名の研究者を有する研究機関でもあります。例えばスポーツ研究に関しても,文理学部及びスポーツ科学部において競技能力の向上に関する研究が進められると同時に医歯薬系学部が中心となり競技特性にあった身体作りや栄養バランスが研究されています。
以上をふまえ本プロジェクトでは,本学が輩出したオリンピックメダリストを含むトップアスリートのアンチ・ドーピングに関する意見・示唆を下地として,日本大学の幼稚園から大学院までを有する継続的な教育体制を経糸に,そして横断的な総合研究力を緯糸にして織込むことで幅広い世代に対して多様な情報を提供するアンチ・ドーピング教育研究拠点を確立します。得られた成果を来るべきスポーツイベントや地域社会・国際社会への展開を通じて発信していき広く社会に還元してまいります。
※記載内容は全て2017年度現在のものとなっております。