2. アスリートとアンチ・ドーピング:アスリートとアンチドーピング
ドーピングに関してアスリートのお話を聞く機会はあまりありません。今回は元アスリートの熱い気持ちをお話しします。
スポーツ科学部 澤野 大地
2018年12月、2008年北京オリンピックの陸上男子4×100mリレー日本代表が銅メダルから銀メダルに繰り上がったと日本オリンピック委員会(JOC)から発表されました。金メダルだったジャマイカチームの1人がドーピング検査で失格となり、国際オリンピック委員会(IOC)からメダル剥奪の処分を受けていた事により繰り上がったのです。
日本代表メンバーの4人はこの正当な結果を受けとるまでに10年もかかりました。また2008年北京オリンピックの表彰台での時間は、いくらメダルが繰り上がったとしても一生戻ってくることはありません。
2004年アテネオリンピックの陸上男子ハンマー投では、大会終了後に優勝した選手のドーピング違反が発覚し、銀メダルだった室伏広治さんは、後日金メダルに繰り上がりました。金メダルに繰り上がった室伏さんは、アテネの表彰台で君が代を聞くことはできませんでした。
ドーピング違反により、4位だったアスリート・チームが繰り上がって銅メダルを獲得したとしても、表彰台で国旗が上がるところを見ることはできません。準決勝で惜しくも9位に終わったアスリート・チームは、決勝に残ったアスリート・チームがドーピング違反で失格になっても、もう決勝の舞台を走ることはできません。北京オリンピックのリレーで金メダルを取ったジャマイカチームの残りの3名は、ドーピングをしていないのにも関わらず金メダルを剥奪されました。そして、そもそもジャマイカ代表に惜しくもなれなかった選手がいるはずです。
このように1人の選手の犯した事により、多くの人が巻き込まれてしまいます。1人のドーピング違反者がいたことによって、たくさんの人が正当な評価をその場で受けることが出来ずに、その大会を終えることになります。その時の感動や感情は、その時だけの特別な時間です。しかしドーピング違反者がいることにより、それらは簡単に奪われてしまうのです。
だからこそ、そうならないためにもアンチドーピングの活動は必要不可欠であり、その中でもアンチドーピングに関する正しい知識を身につけることは一番大切なこととなります。アンチドーピングとは、クリーンで公正なスポーツを守ること。アスリートとしてトップを目指している以上、アンチドーピングに対して正しい知識を持ち、正しい行動をすることはアスリートの義務と言えます。知らなかったでは済まされません。
過去にドーピング違反の例で、安いという理由で海外のサプリメントをネットで取り寄せ使用していたら、それに禁止薬物が混入していてドーピング違反になってしまったという例がありました。このように本人はドーピングしたつもりはなくても、摂取したものの中に禁止薬物が混入していればドーピング違反となるのです。うっかり風邪薬を飲んでしまった、うっかり海外製のサプリメントを飲んでしまった、うっかり誰かから渡されたドリンクを飲んでしまった。そこに禁止薬物が入っていれば、ドーピング違反とみなされ資格停止処分となります。結局最後に口にした自分の責任です。全ては自己責任となるのです。だからこそアスリートは正しい知識と正しい行動が必要となります。
現在の日本において、ドーピングをすることが正しくないことであると認識している選手がほとんどであると思いますが、では何故ドーピングをしてはいけないのか。それは結果としてアスリートの価値、スポーツの価値を下げてしまうからです。もちろんルールとしてドーピングはいけません。ルール違反を犯して得た結果に、果たして胸を張れるでしょうか。その結果に本当の価値があるのでしょうか。決められたルールの上で戦うからこそ、全世界の人が対等に戦うことができ、競い合える。それこそが、まさにスポーツの価値であると私は思います。