4. サプリメントとドーピング:若手アスリートの医薬品・サプリメントの使用実態

アスリートにとってサプリメントを摂る事はパフォーマンスの向上のために日常茶飯事です。それでは若手アスリートはサプリメントに対してどのような認識なのでしょうか?アンケート結果をお話しします。

薬学部 中島 理恵

 日本では、医療費高騰の抑制のためセルフメディケーションが推進されていますが、一般人とは違い多くの薬物がドーピングの対象として禁止されているアスリートには、一般用医薬品の購入の際、いわゆる‘うっかりドーピング’(ドーピング目的でなかったにも関わらずうっかり禁止薬物を服用してしまうこと)の危険性が常に付きまといます。特に、世界アンチ・ドーピング機構(WADA:World Anti-doping Drug Agency)が指定する禁止薬物は毎年常に変更され、複雑化している中、購入したい一般用医薬品の中に禁止薬物が入っているかどうかの判断は、アスリート本人のみでは困難であり、薬剤師等の専門家のサポートが不可欠です。そこで本研究では、アスリートのセルフメディケーション環境向上のため、スポーツ系学部の大学生等の協力を得て、アンケート調査を行い、アスリートのセルフメディケーションの実態に関する情報を収集しました。調査で得られた情報を基に、日本において若手アスリートが抱えるセルフメディケーションに関する問題点を明らかにし、その問題を解決するため、薬剤師・スポーツファーマシスト、薬局といったアスリートのうっかりドーピングの防止をサポートする立場の役割を考察しました。
 若手アスリート(大学のスポーツ系学部に所属する大学および大学院生アスリート)を対象とし、構造化質問票を用いた無記名自記式のアンケート調査を行いました。調査は、2017年11月~2018年1月の間に、大学の講義時もしくは部活動の休憩時間を利用して行いました。調査項目は、性別・年齢といった基本事項、回答者の従事している競技のタイプ(団体もしくは個人競技)、競技レベル(国体以上の大会出場歴など)、一般用医薬品購入時の行動、サプリメントや栄養ドリンク摂取の有無を含めた日頃の栄養管理、そしてドーピングに関する基本知識や経験、行動としました。
 アンケート調査では、820人より回答を得ました。全回答者の59%が過去1年間に一般用医薬品を使用しており、使用する薬がドーピングに引っかかるかどうか調べるか、の質問には18%が「はい」と答え、その内62.4%がインターネットで調べ、薬剤師に聞くと答えたのは30.2%でした。過去1年間にサプリメント等を使用したアスリートは、定期的と一時的合わせて76%いました。ドーピングに関する知識の入手先は、「学校の授業」が一番多く43.5%であり、「薬剤師」は2.2%でした。過去1年間の一般用医薬品の使用は、女性67.5%、男性54.2%と女性の方が男性よりも使用している割合が高く、また一般用医薬品の使用は「国体以上の大会出場歴あり」の回答者で54.9%、「国体以上の大会出場歴なし」の回答者で62.9%と大会レベルによる差が見られました。過去1年間のサプリメントの使用に関しては、男性58.5%、女性39.9%と男性の方が女性よりも使用している割合が高く、また「個人競技」の回答者で60.4%、「団体競技」の回答者で49.5%と競技タイプによる差が見られました。ドーピングが怖くて薬を飲むのを止めた経験があるか?の問いに対しては、「国体以上の大会出場歴あり」の回答者で33.2%、「国体以上の大会出場歴なし」の回答者で6.4%と大会レベルが上がるほど、経験がある(はい)と答えた回答者が増加しました。
 このように、アンチ・ドーピング活動における薬剤師の役割がアスリートに認識されていないことが明らかになりました。特に、薬剤師によるアンチ・ドーピング教育の普及が課題であると考えられますが、今後のアンチ・ドーピング教育では、禁止薬物の知識の提供のみならず、健康や栄養等より幅広い知識を教えることが求められます。また、薬剤師は、選手個々のニーズに合わせたセルフメディケーション支援やアンチ・ドーピングの情報提供を行う必要があると考えられます。