4. サプリメントとドーピング:健康食品やサプリメントの摂取による「うっかりドーピング」の危険性

健康食品やサプリメントと言えば、品質が管理されていて我々の健康を守るものといったイメージが有ります。ところが健康食品やサプリメントを摂る事でドーピングとなってしまうケースが多く有ります。それはどうしてなのでしょうか?

薬学部 野伏 康仁

 近年、国民の健康志向が高まり、健康食品やサプリメントの市場規模は拡大し続けており、2018年の「健康食品・サプリメント市場実態把握レポート」によると推定市場規模は1兆5,624億円になります。薬局やドラックストアで購入できる一般用医薬品の推定市場規模は6,488億円であり、健康食品やサプリメントの市場規模の方が大きく上回っています。医薬品の品質は政府により管理されていますが、健康食品やサプリメントは製造会社に委ねられており、消費者が品質を確認することは困難です。例えば、ミツバチによって種々の植物から集められ天然の抗菌物質として知られているプロポリスは、日本では健康食品や喉飴として販売されています。私達はブラジル産プロポリスの含有成分を調査した結果、抗菌作用などが期待できる有効成分の含量にバラツキがあること、有効成分が含有されていない商品があることを明らかにしました。このように健康食品やサプリメントは、成分やその含量表示が信頼できるものばかりではなく、一部ではドーピング違反となる禁止物質が含まれている可能性があるため摂取には注意する必要があります。
 日本では、ドーピングに対する知識や情報が少なく、アスリートが自己の体調管理のために使用した医薬品や健康食品・サプリメントに禁止物質が含まれた「うっかりドーピング」が大半を占めていると言われています。一般用医薬品の胃腸薬には禁止物質であるストリキニーネ (生薬:ホミカ) が含まれ、総合感冒薬や鼻炎薬にもエフェドリン・メチルエフェドリン・プソイドエフェドリンなどの禁止物質が含まれているものがあるので注意が必要です。一方で健康食品やサプリメントは医薬品とは異なり原材料を表示する義務のない「食品」であり、含有成分をすべて明らかにする義務はありません。そのため禁止物質が含まれていないのかを確認することは困難です。摂取に関してはあくまでも「自己責任」とされています。2016年、青梅を長時間煮詰め濃縮した健康食品に、自然界に存在している蛋白同化ステロイドの一種であり、禁止物質である「ボルジオン」が極微量ながら含まれていることが判明しました。このため、メーカーはサポートしていたアスリートに対してその健康食品の使用を中止するように求めたとのニュースを耳にしました。発覚した経緯としては、メーカー独自に海外の検査機関に依頼し成分分析したことから明らかとなったとされています。なお、この健康食品を摂取したアスリートがドーピング違反に該当したなどの詳細は不明です。我々が普段口にする梅にもドーピング違反に該当する禁止物質が含まれていることを知り、非常に驚かされた。このように、ドーピング検査を受ける可能性があるアスリートが安全に健康食品やサプリメントを摂取することは非常に困難であると思い知らされました。
 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構 (JADA) が展開してきたJADAサプリメント分析認証プログラムは2019年3月に廃止となり、健康食品やサプリメントの安全性を保証する機関がなくなる事態となりました。健康食品やサプリメントの安全性を保証する検査方法の確立や検査機関の設立などにより、スポーツに携わる方が安心して使用できる健康食品やサプリメントが多く商品化されることが望まれます。