6. 生活習慣とアンチ・ドーピング:忙しい生活の合間にも運動習慣を

体を動かし汗をかくのはアスリートだけではありません。一般の方の健康維持にとっても運動は欠かせないものです。今回は、健康維持のための運動についてお話しします。

医学部 松本 悠貴,兼板 佳孝

 運動は肥満,高血圧,脂質異常症,糖尿病といったメタボリックシンドローム関連項目や虚血性心疾患,骨粗しょう症などの予防に有益と考えられています。平成29年の国民健康・栄養調査によると,運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上実施し,1年以上継続している人)の割合は,男性で35.9%,女性で28.6%という結果でした.これを65歳以上の人と20~64歳の人で分けて見てみますと,65歳以上の人では男性で46.2%,女性で39.0%であるのに対し,20~64歳の人では男性で26.3%,女性で20.0%となっており,高齢者に比べて生産年齢の方で運動習慣のある人の割合が低いことが分かります。最も運動習慣のある人の割合が低い年代は,男性が30代で14.7%,女性は20代で11.6%となっています.定期的に運動をしている元気なお年寄りが多いのは大変喜ばしいことですが,反面,若い人たちの運動離れが我が国における大きな課題といえます。とはいえ,20代,30代といえば働き盛りのとても忙しい世代。「お年寄りの方は時間に余裕があるから,運動をしている人が多いのは当然だろう」という声が聞こえてきます。そこで,本稿では時間,特に運動をする“時間帯”に着目をして,忙しい現役世代の方々にもおすすめの運動の仕方について触れていきます。
 運動をするのに最適な時間帯を探すうえで,考慮しなければならないポイントが3つあります。1つ目は,実際の日常生活のスケジュールと照らし合わせて現実的に実行し易い時間帯かどうかといった「実現性」,2つ目は,健康を害するような要因を最小限に抑えるための「安全性」,そして3つ目が,病気の予防や改善といった健康増進のための効果をみた「有効性」です。この3点から,運動をするのに最適な時間帯を考えていきましょう。
 まず「実現性」についてですが,現役世代の方々にとって1日の中で運動に充てることが出来る時間帯は必然的に限られてきます。おそらく大半の人に当てはまる運動可能な時間帯は,仕事に行く前の朝の時間帯,昼休みの時間帯,そして仕事が終わった後の夜の時間帯があげられます。ではこの中で,運動をすると最も効率よく健康に良いと考えられる時間帯はどこになるでしょうか。そこで次に「安全性」と「有効性」について考えていきます。
 「安全性」を考えるにあたって考慮しなければならないのが,最適な時間が存在するのであれば,逆に最も運動をするのに適さない時間帯も存在するということです。それは,朝の時間帯,特に“起床直後かつ朝食摂取前”の時間帯です。実はこの時間帯(午前6時~10時)は,1日の中で心臓突然死が最も起きやすい時間帯といわれています。体を起こすために交感神経系が興奮し,不整脈が発生しやすくなることが原因と考えられています。また,寝ている間にヒトはたっぷりと汗をかきますし,起床直後は最後にご飯を食べてから長時間が経過しています.エネルギーや水分を十分に摂っていない状態での運動はおすすめできません。どうしても朝に運動をしたい人は,朝食を摂った後にすることをおすすめします。
 さて,運動におすすめの時間帯がだいぶ絞られてきました。最後に「有効性」という点を考慮すると,朝,昼,夜,いずれにしても食後の時間帯(胃が食べ物を消化しきる食後30分後)がおすすめです。運動をして血糖をエネルギーとして消費することで,食後の血糖値の急激な上昇を防ぎ,また,余分な血糖が脂肪に変換されて蓄積されるのも防ぎます。朝や昼に比べると,夕食は比較的量が多くなる一方,活動量は昼間に比べると減少するという方が多いのではないでしょうか。そのような点を考えると,特に夕食後の運動は効果的です。また,就床する2時間前に運動を行うと,ちょうど床に就くころに運動後の体温が下がり始め,気持ちよく入眠することが出来ます。従って,睡眠の質を上げるという点でも夕食後の運動は“最適の時間帯”といえます。たとえば,仕事が終わって20時までに夕食を済ませ,21時まで運動をし,23時頃に就寝するといったスケジュールはとても理想ですね。この時間帯であれば,仕事をしている方でも週に2,3回程度であれば多くの方が無理なく実行可能と考えられます。忙しい現役世代だからこそ,時間帯を考えて効率の良い運動を実施することが大切です。2020年には東京オリンピックが開催されます。これを契機に,ご自身の運動習慣についても見直してみてはいかがでしょうか。