2. アスリートとアンチ・ドーピング:わが国における愛玩動物のスポーツおよび品評会におけるドーピング検査の現状

アスリートだけではなく、動物も検査を受けることをご存知ですか?今回のお話は、愛玩動物のスポーツや品評会におけるドーピング検査についてです。

生物資源科学部 枝村  一弥

 ドーピング検査は、ヒトのスポーツのみでなく、動物のスポーツにおいても実施されているのはあまり知られていない。馬術は、動物を扱う唯一のオリンピック種目であり、競技に参加する馬は「馬アンチ・ドーピングおよび薬物規則規定」に則り、ドーピング検査が実施されている1。また、公営競技である競馬においても、競走馬理化学研究所において厳格なドーピング検査が行われている。ドーピング検査の歴史を辿ると、1911年にウィーンにて世界で初めてのドーピング検査が実施されたのは馬である2。このように、馬を用いた競技においては厳格なドーピング検査が実施されており、アンチ・ドーピングの精神が根付いている。

 近年、愛玩動物においても、犬を中心に様々なスポーツ競技が実施されている。現在までに、アジリティー、フライボール、オビディエンス、エクストリーム、フライングドッグ、ディスクドッグ、ドッグダンス、犬ゾリレースなどを中心に多くの競技が行われ、競技人口も増えつつある。これらの競技は、一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)、NPO法人犬の総合教育社会化推進機構(OPDES)、日本フリスビードッグ協会(JFA)、ナショナルディスクドッグアソシエーション(NDA)、ジャパンディスクドッグクラブ(JDDC)など各種団体が主催で行われ、実際に多くの大会が開催されている。JKC主催のアジリティーやオビディエンスの大会では、国内で優秀な成績を収めた場合、世界畜犬連盟(FCI)が主催する国際大会へ進出できる。この世界選手権では、人のスポーツと同様、「International guidelines about dog doping」に準拠して競技犬のドーピング検査が行われている3。  また、FCIのガイドラインでは、意外なことにドッグショーに参加する犬に対しての記載もある。品評会に出場する犬においては、全身被毛、鼻、皮膚の色や体の構造に影響を与える薬物の摂取もドーピングの対象となっている3。このように、国際的には犬のスポーツ競技だけでなく、品評会においてもドーピング検査が実施されている。

 このガイドラインによると、犬のドーピング検査には血液または尿の検体が用いられる3。これらの検体の採取は、基本的に獣医師によって行われる。尿の採取に際しては、検査者の監督の元に犬の所有者が行っても良い3。通常は、A検体とB検査が採取され、A検体で禁止薬物が検出された場合に、B検体を検査し再確認する3。その他の禁止行為には、経皮的電気刺激、超音波療法、レーザー療法、鍼治療なども挙げられており、それらの物理療法を受けてから少なくても7日以上経過している必要がある3。さらに、血液ドーピングも禁止されており、品評会においては外見を変更するような外科手術の介入も禁止されている3

 このような規定があるにも関わらず、わが国においては、犬のドーピング検査に対する体制が十分に確立していないのが現状である。そのような背景から、動物検体を扱う臨床検査センターの協力や競走馬理化学研究所の指導を仰ぎ、愛玩動物のスポーツ競技や品評会における世界基準のドーピング検査の実施体制を整える必要がある。また、わが国においては、競技犬の飼い主だけでなく、獣医師のドーピングに関する認識も低い。そのため、東京オリンピックの開催に向けてスポーツに対する注目が高まる中で、愛玩動物の領域においてもアンチドーピングの精神を根付かせていきたい。

 

参考文献

  1. 1.FEI 馬ドーピング防止および治療規則規定 第1版, 社団法人 日本馬事連盟,2011.
  2. 2.Hübner, E. オリンピック大会におけるドーピングの歴史,スポーツ健康科学紀要,14:55-62. 2017.
  3. 3.Federation Cynologique Internationale (FCI), International guidelines about dog doping. 2009.