5.スポーツ歯科とアンチ・ドーピング:スポーツ歯科の立場から考えるアンチドーピング

スポーツ歯科という言葉をご存知ですか?アスリートのパフォーマンス向上には歯科医師が不可欠です。今回は、歯科医師とスポーツとの関わりについてお話しします。

歯学部 月村 直樹

 一般の大学生にとって歯科の中にスポーツ歯科と言う聞きなれない診療科が存在することをご存知でしょうか?口腔内外のスポーツにおける外傷の予防(マウスガードの作製など)を講じ、不幸にして外傷を受けてしまった後(歯の破折、脱臼、骨折など)の治療を行います。また、時には選手のパフォーマンスを最大に引き上げるべく咬み合わせのバランスをチェックし調整などを積極的に行うと同時に、スポーツと歯にまつわる様々な方面の研究を行っている診療科です。この診療科の科長として平成14年から17年に渡り多くの選手のサポートを行ってきました。また、日本大学が所有する八幡山メディカルセンターには、ほぼ1年を通して出向き、八幡山に合宿所がある競技スポーツ部の学生に対し歯科検診で口腔内管理を行っております。さらに、大学以外でも関東ラグビーフットボール協会メディカル委員会歯科委員会や日本バスケットボール協会医科学員会などに属し、選手の安全対策に取り組んで参りました。ラグビーでは、関東協会の属するチームのセーフティーアシスタントに対し、スポーツ歯科の概要と応急処置などを講演しています。バスケットボールでは、非常勤歯科医師としてバスケットボールの各カテゴリーの代表選手の歯科検診を国立スポーツ科学センターで行い、対外試合で問題が起きないように帯同ドクターと歯科に関する情報を共有することを行っております。
 このように、私の歯科のライフスタイルには、いつもスポーツが身近にあり趣味と実益を兼ねた仕事をすることに誇りを持って、スポーツデンティスト。障がいスポーツ医として、それぞれの現場で臨ませていただいております。
 さて、今回のメインテーマであるアンチドーピングに関してですが、歯科で現在使用している薬剤や注射などにドーピングに関わるものはありません。したがって、診療に関しては、比較的スムーズに行うことができると考えられています。しかし、昨今生薬と言われる漢方の成分にドーピングに呈するものが多く見つかっていることから、投薬の際に胃薬として出すことのできるものの中の、ヒゲナミンに対し注意が喚起されています。また、サプリメントに関しても、外国のものを中心に成分表記があいまいなものもあることから、八幡山で歯科検診を受診する学生には、その危険性について積極的に情報を共有するように努めています。また、協会のNF Representativeと言う立場から、試合において行われるドーピング検査に立ち会い、ドーピング検査そのものが選手にとって不利益にならないように監視しております。ドーピング検査は、閉ざされた場所で行われることが常なので、選手も緊張することが多く、また試合終了後に拘束されてしまうことから、なるべくリラックスするような言葉がけをする一方で、検査自体が適正に行われるようにドーピングコントロールオフィサー(DCO)と話し合いながら、毎回その業務にあたっています。
 アンチドーピングは、スポーツにおける全世界の共通の目標であるにもかかわらず、相変わらず国ぐるみで行われていることも発覚したりして、いたちごっこの様相になってきております。正々堂々とスポーツマンシップに則り戦い、お互いにその努力を讃え合い、尊重するような世界になっていくことを望みます。その場面において、歯科医師としても黒子として、選手が輝けるようなサポートをしていけたらと思っております。少しでも多くの方にスポーツにおける歯科医師(Sports Dentist)の役割をわかっていただけましたら光栄です。