2. アスリートとアンチ・ドーピング:日本大学スポーツ科学部競技スポーツ学科と「ドーピング論」
現在、全国の大学でスポーツ系の学部が創設されています。今回はその先駆けである日本大学のアンチ・ドーピング教育の現場から、学生アスリートの意識の現場をお話しします。
スポーツ科学部 布袋屋 浩
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を機に、本格的なスポーツ立国の実現をめざす日本では、「競技水準の向上」が強く求められています。そのために必要なのは、ハイパフォーマンスを発揮できるアスリートと、その育成に携わる指導者のレベルを向上させることです。日本大学ではそうした時代のニーズにいち早く対応し、2016年4月にスポーツ科学部競技スポーツ学科を開設しました。本学科の学生たちは、オリンピック出場を目指しているトップアスリートや、自らの経験と知識を活かして選手の競技力を高める指導者、あるいは幅広い視点からスポーツを科学的に探究する研究者を志している者が多く、全学生が何らかの競技スポーツに深く携わっております。そして3年次の専門科目に小生が担当しております「ドーピング論」があり、ほとんどの学生が履修登録をいたします。そこで本校1期生のうち「ドーピング論」の1回目授業に出席していた247名を対象に、ドーピングについてどれだけ認識・理解しているか、サプリメントや薬にどの様な競技力向上を希望しているのかなどを把握するために、アンケート調査を実施しました。いくつかの結果を以下に示します。
1)ドーピングについて、どういうものか知っていましたか?
- よく知っている :12%
- まあまあ知っている:38%
- 何となく知っていた:48%
- 知らなかった : 2%
2)今まで実際にドーピング検査を受けたことはありますか?
- ある: 8.5%( 21名)
- ない:91.5%(226名)
3)あなたは今、どのような効果がある薬が欲しいですか?
- 体力・スタミナ向上:19%
- 筋力増強 :18%
- スキルアップ :15%
- 痩せる :12%
- キレ・スピード : 9%
- 疲労回復 : 8%
- 集中力を高める : 8%
- ケガ・故障しない : 2%
- 薬はいらない : 9%
4)あなたは世界一を狙うアスリートです。この薬を使えば金メダルが確実だとします。ちなみにこの薬はその使用が明らかになる可能性およびドーピング検査に引っかかる可能性はかなり低いとします。
もしその薬が入手可能だとしたら、その薬を使いますか。またその理由は何ですか。
- 使う : 35人14%、 理由…世界一になれるなら35人(100%)
無回答 : 24人10%
使わない:188人76%
- ・かなり低いとしてもリスクがあるなら使わない :74人(39%)
- ・薬を使い世界一位になってもやりがいを感じない:35人(19%)
- ・罪悪感がある :35人(19%)
- ・フェアでない、スポーツマンシップに反する :25人(13%)
- ・その他 :19人(10%)
アンケートに答えた247人のうち、ドーピングについてよく知っている者は30人(12%)であり、実際にドーピング検査を受けたことがあるトップアスリートは21人(8.5%)でした。そしてほとんどの学生はドーピングに対して否定的ではありましたが、世界一になれるのであれば、そして発覚しなければ薬を使用するという者も35人(16%)存在しました。
競技スポーツとは、賞のために競い合うスポーツのことであり、勝利すれば名誉や賞金、賞品といったご褒美を手にすることができます。よって選手は勝つために多くの練習やトレーニングを積み、栄養補給や身体のケアなど、あらゆる努力を惜しみません。健康スポーツではドーピングは考えられませんが、「勝ちたい」という意識が強い競技スポーツだからこそ、ドーピングがなくならないのでしょう。かといって競技スポーツそのものが悪い、ということでは決してありません。むしろ競技スポーツは心身の健全な成長・発達に非常に役立っているのです。競技スポーツでの勝利者は、優勝者ただ一人のみで、それ以外の選手は全員敗退してしまいます。この負ける、失敗する、挫折するということは、競技スポーツだからこそできる体験でもあります。そしてスポーツをする人のみならず、みる人も支える人も、人生で経験する全ての感情と同じような喜怒哀楽、勝利と敗北、成功と失敗といった感情を体験できるので、スポーツは“人生の縮図”ともいわれております。ルールを守り、他人を思いやりながら目標に向かって懸命に努力するという態度や、立ちはだかる課題について自分自身で考え、判断し、解決する能力も養われますし、スポーツを通した経験と友情は、一生の宝物でもあります。
スポーツに関わるすべての人々が、フェアプレー精神を守り、ルールやマナーに従い、勝敗に関わらず他者を尊重する姿勢を決して忘れず、そしてドーピング行為は絶対に許されない、ということを常に肝に銘じておくことが、スポーツの絶大なる価値と力を守り、信頼を高めることにつながります。今回のアンケート結果から、アンチ・ドーピングについての更なる啓蒙活動の必要性を改めて感じました。