2. アスリートとアンチ・ドーピング:アンチ・ドーピングの現状~ウエイトリフティング競技を中心に~
重いものを持ち上げるためには強い筋肉が必要です。そのためウエイトリフティング競技でのドーピングはなかなか絶えません。今回のお話はウエイトリフティングから見たドーピングについてです。
生物資源科学部 難波 謙二
ウエイトリフティング競技はバーベルを頭上まで持ち上げる競技です。第1回オリンピック競技大会(アテネ・1896年)より採用されています。挙上方法は様々な変遷を経て、現在ではスナッチ(両手でバーベルを一気に頭上へ持ち上げる)とクリーン&ジャーク(両手でバーベルを胸上にて支持し、その後一気に頭上へと差し上げる)の2種目のトータル重量で勝敗を決します。また、男女各10階級の階級制を用いています。2019年8月現在の世界記録は男子+109㎏級のクリーン&ジャーク競技において260㎏を挙上しています。男子55㎏級のクリーン&ジャーク競技においては162㎏です。
バーベルを持ち上げる行為には、技術はもとより力発揮が重要な要因です。そして、競技力向上には筋力の増大とそれぞれの階級における体重の調整が如何に重要度の高いものか容易に想像ができます。国際大会での成績が選手の人生を左右しています。そのような背景の中、筋力を増大するために蛋白同化作用のある物質の摂取が頻繁に行われ、それを隠蔽する目的で利尿剤を用いる方法が存在していました。また、利尿剤は体重を減少させるために使用されてきたこともあります。蛋白同化作用のある物質:いわゆるアナボリックステロイドは1975年、利尿剤は1988年に禁止薬物になっています。しかしながら、世界の多くの選手でドーピング違反が見受けられます。
2017年に国際オリンピック委員会はウエイトリフティング競技のドーピング違反者の増大を受け、2020年の東京大会では階級と出場者数の削減を行うことを決定しました。そして今後も、徹底したドーピングコントロールを行い違反者がいなくならなければ競技存続も危ぶまれるところです。
実際にドーピング検査には様々な手続きがあります。検査を行うのは日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の検査員及び国際大会では世界ドーピング防止機構(WADA)の検査員が行います。競技会検査では競技会に出場する選手にランダムに指名され、尿検査を主に行われます(場合によっては採血を行う場合もある)。競技会外検査(抜き打ち検査)では一部の選手はあらかじめ自身の居場所情報を登録し、検査員が直接対象選手を訪問し、検査をします。その際、事前通告は行われず、選手は突然検査を受けなくてはなりません。自身が登録した場所ならどこでも現れ、寝ていても起きて検査に応じなければなりません。これは選手にとって非常に負担であることは言うまでもなく、選手を支える家族、合宿中であれば指導者もその対応に追われます。
アンチ・ドーピングの教育・啓蒙活動は数多く行われ、多くの知識の共有がなされてきています。特に大学生は国際大会への出場も多くなり、その知識を切望しているようにも感じます。今まで何気なく摂取していた風邪薬や目薬にさえ、禁止薬物が含まれていることが多く、注意が必要です。一般的にも“禁止されていること=身体に何らかの影響を及ぼす“ことを意味します。これはスポーツ選手だけでなく、一般の人にも当てはまり健康増進を考えた際、自身の身体に注意を向け、食物・医薬品・サプリメントを摂取することが重要であると言えます。そして、JADAでは検査と並ぶ活動に公正にスポーツを行うことを目的としています。
スポーツはルールを遵守した上で、磨き上げた力を競い、公正にプレーすることで人々に感動与え、自身の成長を促し、健全な社会の形成につながるもと考えます。