3. 薬とドーピング:あなたもまさかのドーピング陽性者!?

自分では気をつけたつもりなのにドーピング陽性者になってしまうことがあります。禁止薬物を摂ってしまう危険性はどこにあるのでしょうか?今回のお話は薬局などで買える身近な薬とドーピングの関係についてです。

短期大学部 髙橋 敦彦

 世界中のスポーツ競技が公平・公正に行われるように世界共通のアンチ・ドーピングルール1)が定められています。(「世界アンチ・ドーピング規程」)

 自分はスポーツをしているけれど、ドーピングなんか全く縁がないと思っていらっしゃいませんか? 筋肉増強薬、ホルモン薬など特殊な薬の使用だけがドーピング問題になるのではありません。このコラムでは意図せずにアンチ・ドーピング規程に抵触してしまう可能性を中心に述べます。薬局で販売されている風邪薬やサプリメントは日常的に使用されることが多い薬です。ましてや、慢性疾患でかかりつけ医からもらっている薬がドーピングの規定に引っかかるなどとは夢にも思わないかもしれません。また、食品(特に輸入品)の中には禁止薬物が含有されている場合もあります。錠剤やカプセルの形をしていなくても自ら意図していない薬物を摂取してしまう可能性もあるため、アンチ・ドーピング規程に抵触しないようにするためには、口にするもの全てに細心の注意をはらう必要があります。
 以下にいくつかの例をあげて簡単に説明します。

 

  • ⓵感冒薬(総合感冒薬、鎮咳薬、去痰薬など):風邪をひくと対症療法として市販薬や処方薬を服用する事があると思います。総合感冒薬に中には、禁止物質であるメチルエフェドリンなど、鎮咳薬には交感神経β受容体に作用する薬が含まれていることがあります。
  • ⓶抗アレルギー薬:花粉症などのアレルギー疾患には禁止物質の副腎皮質ステロイドホルモンを含有するものがあります。
  • ⓷漢方薬(生薬):漢方薬は自然の植物、鉱物由来ですが、その成分が規定に抵触するもの(麻黄(マオウ)、ホミカ(ストリキニーネ)、海狗人(カイクジン)、麝香(ジャコウ)など)があります。
  • ⓸サプリメント:サプリメントは食品に区分され、医薬品のようにすべての含有成分が表示に記載されていないものがあります。①筋肉増強、②脂肪燃焼、③痩身を目的とするサプリメントなどは、特に注意が必要です。

 

 さて、病気やけがの治療で治療薬が必要であり、その薬がアンチ・ドーピングの規定上、禁止薬物であった場合はどうすればよいのでしょうか?一つは、医師や薬剤師2)と相談して禁止薬物ではない薬を使用することです。しかし、使用する薬に代替薬がない場合もあります。そうした場合には、「TUE(Therapeutic Use Exemption:治療使用特例)」というルール3)を用いて、事前に申請を行い、申請が認められた場合は、病気やけがの適切な治療を目的として禁止物質や禁止方法を使うことが可能になる場合があります。具体的には、国際競技連盟から指定されているアスリートの場合は、国際競技連盟にTUE申請を行い、それ以外の場合は原則として日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency; JADA)4)の TUE委員会へ直接申請を行うことになります。

 意図しないドーピングを避け、スポーツの価値を守り、フェアなスポーツを楽しむためにもアンチ・ドーピングに関する知識を得ることは意義があることと考えます。

 

【参考】

  1. 1)世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency; WADA)策定による「世界アンチ・ドーピング規程」 https://www.playtruejapan.org/code/rule/
  2. 2)薬について問い合わせ https://www.realchampion.jp/knowledge/medicine
  3. 3)TUE(Therapeutic Use Exemption:治療使用特例) https://www.realchampion.jp/download/6
  4. 4)日本アンチ・ドーピング機構 https://www.playtruejapan.org/